双頭の鷲の旗の下に
Unter dem Doppeladler

世界の行進曲・愛国歌/オーストリア

『双頭の鷲の旗の下に(そうとうのわしのはたのもとに)』は、J.F.ワーグナーが19世紀後半に作曲した行進曲。ドイツ語タイトルは「Unter dem Doppeladler」、英語では「Under the Double Eagle」。

<写真:イスタンブール(トルコ) コンスタンディヌーポリ総主教庁の紋章>

J.F.ワーグナー(Josef Franz Wagner/1856-1908)は、オーストリア=ハンガリー帝国(1867-1918)の軍楽隊長を務め、数多くの行進曲を作曲したことから「Austrian March King オーストリアのマーチ王」と称賛される。

「ワーグナー」という名前を聞くと、歌劇『タンホイザー』や『ローエングリン』で知られる19世紀ドイツの作曲家リヒャルト・ワーグナー(Wilhelm Richard Wagner/1813-1883)が思い出されるが、両者に家族関係は一切ないようだ。

アメリカのマーチ王スーザも演奏

「マーチ王」と言えば、『星条旗よ永遠なれ』、『ワシントンポスト』などで知られる「アメリカのマーチ王」スーザも、『双頭の鷲の旗の下に』を自身のレパートリーに加えて演奏している。

スーザの演奏や録音によりアメリカ国内でも広く知られるようになり、行進曲・マーチとしての知名度だけでなく、カントリーやブルーグラスの楽曲としてアコースティックギターで演奏される機会も多い(後述)。

日本では運動会の行進曲に

日本の小中学校などで開催される運動会では、『天国と地獄』、『トリッチ・トラッチ・ポルカ』、『道化師のギャロップ』など、定番のクラシック音楽が競技中のBGMとして使われることがあるが、『双頭の鷲の旗の下に』も入退場の行進曲として使用される機会が多いようだ。

入退場の行進曲としては、先にご紹介した「アメリカのマーチ王」スーザの楽曲も運動会や小中学校の年中行事に欠かせない定番曲と言える。

運動会で使われるその他のクラシック音楽等については、こちらの特集「運動会で使われるクラシック音楽 フォークダンスの名曲」を参照されたい。

ブルーグラスの定番曲

アメリカでも広まった『双頭の鷲の旗の下に』は、やがてカントリーミュージックやブルーグラス(Bluegrass music)などのアコースティック音楽の分野でも広く定番の曲として定着していった。

ギターやマンドリン、バンジョーやフィドルなど、アップテンポで軽快なリズムに乗せたブルーグラスの楽曲としてレパートリーに加える演奏者も多く、ノーマン・ブレイク(Norman Blake)やクラレンス・ホワイト(Clarence White)などのCDアルバムにも同曲が収録されている。

双頭の鷲と世界各国の国章・紋章

曲名の「双頭の鷲」とは、文字通り頭を二つ持つワシの意匠で、古くは11世紀のイスラム王朝セルジューク朝や、13世紀頃の東ローマ帝国で、国家を象徴する紋章として使われていた。

東ローマ帝国においては、東と西に分裂していたローマ帝国を二つの頭を持つ双頭に象徴させる意味合いもあったようだが、実際に東ローマ帝国で「双頭の鷲」が国章に採用された時期は、既に同帝国が衰退を始めていた頃で、皮肉なことに西ローマ帝国に及ぶべき支配力も失われていたようだ。

ロシア連邦の国章にも

ローマ帝国崩壊後は、神聖ローマ帝国とハプスブルク家の紋章として継承され、ドイツオーストリアロシア帝国などに受け継がれていった。

上挿絵:オーストリア=ハンガリー帝国の国章(出典:Wikipedia)

特にロシア帝国では、「双頭の鷲」の二つの頭はそれぞれ東はアジア、西はヨーロッパに及ぶ帝国の支配力の象徴として採用され、2000年以降のロシア連邦の国章としてその姿を現在に伝えている。

ロシア連邦の国章(2000年~)

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